記憶から遠くなりましたが、
SARS(重症急性呼吸器症候群)が2002年11月中国広東省仏山市で発生し、瞬く間に世界中へ拡大し、大きな問題となりました。これはSARSコロナウイルスを病原体とする新しい感染症でした。
今年は鳥インフルエンザ(別名 家禽ペスト)。これもインフルエンザ ウイルス(AIウイルス)が原因の鳥類の疾病ですが、人間にも感染を広げる可能性の高い厄介なウイルスです。
ウイルスは生きた細胞内でしか増殖できないため、ウイルスの宿主域(しゅくしゅいき)は限られ、哺乳類は哺乳類だけ、魚類は魚類だけ、鳥類は鳥類だけに感染するのが普通なのですが、
インフルエンザウイルスは哺乳類にも鳥類にも感染する特異なウイルスなのです。
抗ウイルス剤「タミフル」が漢方薬の大茴香からできるってほんと?
インフルエンザといえば人のあいだで流行する悪性風邪、呼吸器疾患と思われていますが本来は水鳥がインフルエンザウイルスの本来の宿主なのです。この水鳥から豚、馬、ヒトにも伝染し、海鳥、渡り鳥、鶏(ニワトリ)などの鳥類にも伝染します。
インフルエンザは、いまだ人類に残されている最大級の疾病で、特効薬は開発されていません。鳥インフルエンザの流行に備えて、今、各国ではA型・B型インフルエンザに有効とされているロシュ社の抗ウイルス剤「タミフル」の備蓄を進められています。その「タミフル」の原料には漢方薬の大茴香(シキミ科のトウシキミ Illicium verum HOOK. fil の成熟果実)が使われています。「トウシキミ」の果実は8個の袋果からなる集合果で、八角形の星形(スター)をしているので「八角茴香」「スターアニス」とも呼ばれ香辛料にも使われます。
ダイウイキョウの花 |
大茴香 |
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大茴香を原料として抽出されたシキミ酸(Shikimic acid)は、多くの合成工程をへて製造された Oseltamivi がタミフルの主成分の原材料として利用されています。シキミ酸は経済的に合成する方法が無いため、その生産は大茴香に依存しています。この大茴香の多くは中国で生産されており、ロシュ社がその生産量の90%以上を中国政府との契約で押さえていると言われています。
漢方薬の大茴香がいま注目されている鳥インフルエンザの抗ウイルス剤「タミフル」の原料なのです。とても興味深い話ですね。
シキミの花 |
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樒(シキミ)は日本に広く分布するシキミ科 Illicium religiosum の常緑樹です。仏壇にお供えする「おしきみ」はこの樹の枝での仏事に古くから利用されてきた、私たちになじみ深い植物です。果実が有毒であるとの事から、「悪しき実(アシキミ)」との呼び名になり、それが転化して「シキミ」と呼ばれるようになったと言われています。
1885年 Eijkman がこのシキミの果実から芳香族化合物の生合成中間体である環状化合物の「シキミ酸(Shikimic acid)」を単離しました。シキミ酸は分子内に多くの不斉点を有することから様々な生理活性物質の合成原料として注目、活用されています。この成分名に、この植物の和名「シキミ」が命名された事は非常に興味深いことです。
シキミは多くのシキミ酸を含んでいますが生産量が少ないため、同属のトウシキミ Illicium verum 大茴香がシキミ酸の原料に使用されています。
抗ウイルス剤「タミフル」は鳥インフルエンザの特効薬でありません。ウイルスの増殖を抑える効果があるだけです。その為に発症後48時間以内に服用しなければ効果が出ないと言われています。
有効な薬の少ないSARSの流行時、中国では予防的手段として免疫力向上を目的とした漢方薬が大流行し、関連する漢方薬が不足して価格も暴騰しました。今回の鳥インフルエンザも免疫力向上に効果があるといわれる漢方薬が値上りし、品不足も心配です。
インフルエンザのようなウイルス性疾患には「ワクチン」や「タミフル」のような抗ウイルス剤が使われますが有効性が疑問視されています。インフルエンザ対策には自己の免疫力を増強する漢方薬は有効な予防手段かもしれません。
注目されている新薬「タミフル」の原料も漢方薬。自己の免疫力を向上さすためにも漢方薬。
古くて新しい『漢方薬』もバカに出来ませんね。