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病気の悩みを漢方で

症状と漢方薬

肝臓病の漢方

(1)ウイルス肝炎

1.ウイルス肝炎治療の進歩

 現在のウイルス肝炎治療は、抗ウイルス療法が主体です。
 C型肝炎ウイルス(HCV)が1989年に発見されて以来、抗ウイルス療法は、インターフェロン(IFN)製剤、 IFNの改良製剤と抗RNAウイルス薬(リバビリン:RBV)の併用療法、HCVに対する直接的抗ウイルス薬(DAAs)が実用化されました。2014年以降は、経口剤のDAAの治療が可能になってきました(図1)。

2.慢性肝炎の小柴胡湯(ショウサイコトウ)治療の経緯

  IFN治療が実用化される前には、慢性肝炎に小柴胡湯(ショウサイコトウ)と桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)を併用する療法は、昭和後半期(1980年代)の漢方保険診療の重要な話題でした( 肝胆膵., 1984; 9: 825-831)。

 小柴胡湯が慢性活動性肝炎(主にB型)の肝機能を改善する効果が明らかにされていました。

 は、慢性活動性肝炎患者の12週後のAST, ALTを対照群(小柴胡湯1/10量)より低下した。肝機能異常改善効果はB型で特に顕著であった。

二重盲検ランダム化比較試験 Gastroenterologia Japonica. 1989; 24: 715-9


 ところが、「慢性肝炎に小柴胡湯」という病名に基づく漢方製剤療法が暴走して、いわゆる“小柴胡湯事件”と称される事案が起きました(1996年)。漢方薬名の意味:小柴胡湯を参照してください。
 この事件の反省を踏まえて、小柴胡湯製剤の使用禁忌を含む適正使用指針が整備されています。⇒ちょっと一言

 なお、 “小柴胡湯事件”後にも、医療用小柴胡湯製剤は「慢性肝炎における肝機能障碍の改善」という適応症で臨床応用されています。

 は、IFN療法を終了したC型慢性肝炎患者の50ヵ月後のAST, ALT を対照群(肝庇護剤投与群)より有意に低下した。

ランダム化比較試験 化学療法研究所紀要. 2003; 34: 40-51


 現在では、抗ウイルス療法の適応病態では漢方製剤の出番は多くありません。
 ただし、ウイルス肝炎の治療は、ウイルスを排除するだけでは完結しません。抗ウイルス療法後に肝細胞を保護して肝炎を沈静化する肝庇護療法や、慢性化に伴う心身の諸症状を軽減してQOLを高める医療に漢方製剤の役割があります。

3.和解・理気剤(ワカイ・リキザイ)

 ウイルス肝炎の亜急性期以降の食欲不振吐き気抑うつ不安情緒の変動などの随伴症状は、ウイルス感染後の sickness behavior意欲・行動変化)に相当します。これらは、少陽病(ショウヨウビョウ)の和解剤(ワカイザイ)の適応です。コロナ後遺症(1)を参照してください。

 和解は、寒熱病理の虚実が錯雑した病態を調整する薬能です。和解には、清熱に加えて、精神神経症状を軽減する理気(リキ)や体力低下を整える補気(ホキ)も含まれます。病期かぜ(2)を参照してください。

 ウイルス肝炎亜急性期以降に用いられる主な和解・理気剤図2にまとめました。

 C型慢性活動性肝炎患者に各種の和解・理気剤を用いて肝機能の指標となるALTGPT)値が改善した報告があります。

 (合桂枝茯苓丸)、柴胡桂枝湯(合当帰芍薬散)、柴胡桂枝乾姜湯加味逍遙散加味帰脾湯をC型慢性活動性肝炎の病態の変化に応じて投与し、ALT値が改善し、HCVRNAが検出感度以下になった。

 日東医誌., 2000; 51: 43-50


(サイコケイシトウ)は、あまり体力がない慢性肝炎患者の基本方剤とされています(日門亢会誌., 2007; 13: 197-202)。
 本方は、小柴胡湯の作用を桂枝湯(ケイシトウ)で緩和し補益性を高めた方剤です。小柴胡湯頭痛腹痛および不定愁訴を伴う場合に適した理気降気の薬能を有する和解剤です。

(サイコケイシカンキョウトウ)は、交感神経系過敏症状(動悸驚きやすい不眠)がある虚弱体質者で、首から上の発汗口乾手掌のほてりを伴う慢性肝炎の適応になるとされています(日門亢会誌., 2007; 13: 197-202)。
 本方は、抑うつ不安冷えのぼせを軽減する理気和解剤です(日東医誌., 1991; 42: 236-243)。漢方薬名の意味:柴胡桂枝乾姜湯を参照してください。

(カミショウヨウサン)は、C型慢性肝炎に対する各種の柴胡配合剤使用後に使用されています(日東医誌., 2000; 51: 43-50)。
 本方は、冷えのぼせ抑うついらだち不眠など変動する多様な愁訴に適した方剤です。柴胡剤活血剤(カッケツザイ)の桂枝茯苓丸の併用を1剤でまかなえる理気補気活血剤です。漢方薬名の意味:加味逍遙散を参照してください。女性だけでなく男性にも使用されます。

4.活血剤駆瘀血剤 クオケツザイ)

 慢性肝炎には瘀血(オケツ)が関与するので、桂枝茯苓丸小柴胡湯柴胡桂枝湯と併用されてきました(Proc. Symp. WAKAN-YAKU, 1979; 12: 107-113)。
 桂枝茯苓丸補中益気湯(ホチュウエッキトウ)を併用した慢性肝炎治療例もあります(日東医誌., 2005; 56: 585-590)。
 慢性疾患と瘀血は、漢方薬名の意味:桂枝茯苓丸を参照してください。

5.補益剤(ホエキザイ)

 現在、ウイルス肝炎患者は体力の低下した高齢者が多くなり、倦怠感体力低下は、補益剤の適応になります。

 六君子湯(リックンシトウ)は、消化吸収機能を整えて体力をつける方剤です。漢方薬名の意味:六君子湯を参照してください。
 慢性肝炎に伴う胃もたれ吐き気食欲不振日門亢会誌., 2007; 13: 197-202)や、長患いに対する不安抑うつ症状にも適します(日東医誌., 1994; 45: 381-386)。

 補中益気湯(ホチュウエッキトウ)と十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)の慢性C型肝炎への応用例があります。

(6ヶ月投与)は、慢性C型肝炎患者の倦怠感易疲労感を改善。

 日東医誌., 1999; 50: 215-223



は、C型慢性肝疾患難治例のQOLを高め、血清ALT値を改善。

 日東医誌., 2005; 56: 263‐274



 (グリチルリチン製剤、ウルソデオキシコール酸製剤と併用)はIFN療法で完結しない慢性C型肝炎の倦怠感を軽減した報告があります(日東医誌., 2010; 61: 1-8)。


 (ニンジンヨウエイトウ)が、慢性C型肝炎患者のPEG-IFN/RBV療法による貧血を軽減した報告があります(World J Gastroenterol, 2005; 11: 4013-4017)。

 人参湯(ニンジントウ)と真武湯(シンブトウ)は、PEG-IFN/RBV療法と併用してPEG-IFN/RBVの治療効果が高め、治療の中断率を減らした報告があります。

 人参湯真武湯(とPEG-IFN/RBV療法併用群)は慢性C型肝炎患者のウイルス陰性化率は対照群(PEG-IFN/RBV療法単独群)の(56.0%)と(48.0%)より有意に高い。

ランダム化比較試験 J. Trad. Med., 2013; 30: 132-139


ちょっと一言:(トピックス)

小柴胡湯製剤の適正使用指針

 本文2項目に記載した“小柴胡湯事件”後に、小柴胡湯製剤には間質性肺炎を誘発することを意識して使用する注意が明記されています。

【警告】小柴胡湯の投与により間質性肺炎が起こることがある。

【禁忌(次の患者には投与しないこと)
1.IFN製剤と投与中の患者(間質性肺炎が起きやすい)
2.肝硬変、肝がんの患者(間質性肺炎が起きやすい)
3.慢性肝炎の肝機能障碍で血小板数10万/mm3以下の患者。
  (血小板数の減少は肝硬変が疑われる)

(2024年5月7日 公開)


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