精油を利用した治療 アロマセラピー
京都で開かれた日本アロマセラピー学会関西地方会に出席し、心のこもったお話に触れる度に滲む涙とともに、講演を聞いてきました。
漢方薬で重要な役割を果たしている精油を利用した治療は、フランスやイギリスではアロマセラピーとして発展してきました。
日本でのアロマセラピー
日本ではアロマは雑貨として扱われているため、正しい知識なく、用いられると危険であり、注意が必要として、数年前から日本アロマセラピー学会が発足し、学術的な研究と教育がなされています。

漢方と重なる特徴があり、この学会の重職を担っていらっしゃる漢方の大家の先生もいらっしゃいます。
正しい用い方をすれば、末期癌で苦しんでいらっしゃる方や、高齢の方に笑顔を取り戻していただく補助にとても役立ちます。感動はしばしば涙を誘いますが、患者さんが喜ばれ、病気に明るく立ち向かわれるお話をうかがえる学会では、しばしばこの体験をします。


Eさんは、3歳の頃からのアトピー性皮膚炎で、皮疹が出現したときのみ、ステロイド外用を主とした治療を受けてきました。
最初は良かったのですが、次第に全身に広がるようになり、外用もあまり効果が感じられなくなってきました。
その頃、ステロイドは怖いということを耳にしたため、使用をやめて7年以上にわたり超酸性水、漢方薬、ビタミン剤内服などを行ってきましたが改善せず悪化の波が消えないということで私どものところに来られました。
初めて拝見したとき、全身の皮膚は赤黒くなり、丘疹をともなっていましたが、炎症後色素沈着が主体で、通常のアトピー性皮膚炎によくみられる症状とは異なっていました。皮膚科的にみて外用療法のみでは改善しにくいと考えられる状態であり、加えて気虚の徴候が強くみられたため、漢方療法をとりいれました。内服していただく漢方薬を経過に応じて選択しましたが、補中益気湯をベースに利水と軽い抗炎症作用のある猪苓湯を併用したときに、最も軽快の方向に向かっていることがわかりますとおっしゃられました。
それでも慢性化した病気の状態から元気を回復されるまでにはまだ時間がかかりそうでした。
そこで、この方に併用したほうが良いと思われるいくつかの治療法や補助療法について説明したところ、アロマセラピーを希望されました。
アロマの使用は保険診療外ですので、研究にご協力いただく形で同意を得ました。

無農薬有機栽培のエッセンシャルオイルの中から、ティートリーとラベンダーを選択し、白色ワセリンに微量だけ混ぜたものを作成し、先にパッチテストを行い、トラブルのないことを確認してから、肩から胸にかけての狭い領域に少量外用していただきました。
それまで、浸出液がパジャマにくっついて痛くなるだけでなく、その臭いがいやで眠れなかったということでしたが、自分の体から良い香りがして、幸せな気分で眠れるようになったと言っていただきました。

その後、5年以上、経過しますが、食事の注意を守るだけで、治療薬なしで再発なく健康な皮膚の状態が続いていることを、教えていただいています。
アロマには、慣れの現象もあることや、使用途中からアレルギーを生じる危険があることなど、詳しく説明していましたので、必要なときのみ、間欠的に併用することを守っていただけました。
2カ月後には皮疹も消失しましたので、少量使用ですみましたが、来院時にご本人の目の前でこの軟膏を作成したところ、とても嬉しそうなお顔を拝見することになり、こちらまで幸せな気分と香りに包まれました。
文:大阪市立大学大学院医学研究科皮膚病態学助教授
小林裕美先生 / 薬事日報 10107号
治療法を併用するときは、相互作用に特に注意が必要です。
アロマも勉強しながら、漢方と西洋薬のみならず、漢方と補助療法の組み合わせについて有用性を検討することで、ニーズにあった医療を提供できればと考えています。