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病気の悩みを漢方で
清心蓮子飲(セイシンレンシイン)
1.清心蓮子飲 (セイシンレンシイン)の意味
清心蓮子飲の清心(セイシン)は、心火(シンカ:いらだち、焦燥感、のぼせ、動悸、不眠、不安)を清める(さます)薬能です。
蓮子は、ハスの種子から調製される生薬です。日本では蓮肉(レンニク:ハスの内果皮の付いた種子:図1)と称しています。
蓮肉は心神不安(シンシンフアン:抑うつ、いらだち、不眠)の軽減に関与する養心安神薬(ヨウシンアンシンヤク)です。さらに頻尿など体液の漏出を抑える補腎(ホジン:渋精 ジュウセイ)と、脾胃気虚(ヒイキキョ:胃腸虚弱、倦怠感)を整える補気(ホキ)も担っています。
2.清心蓮子飲の適応:排尿異常、倦怠感、いらだち
日本の清心蓮子飲製剤の適応は、尿が出しぶる、残尿感、頻尿、排尿痛など泌尿器領域の症状(淋証 リンショウ)に限定されています。 淋証は漢方薬名の意味:竜胆瀉肝湯を参照してください。
本方の原典には泌尿器症状だけでなく、煩躁(心火に相当:いらだち、焦燥、のぼせ)、憂愁抑鬱、睡臥不安(心神不安に相当:不眠)四肢倦怠(脾胃気虚に相当)、口舌乾燥、五心煩熱 (津液不足 シンエキフソクに相当)する症状も例示されています。
3.清心蓮子飲の配合生薬
本方には熱証の心火を鎮める清心薬の黄芩(オウゴン)と麦門冬(バクモンドウ)が含まれ、一方、寒証を温める青字の生薬も含まれています。
燥証を潤す生津薬(セイシンヤク)の麦門冬(バクモンドウ)地骨皮(ジコッピ)と湿証をさばく利水薬の黄芩、車前子(シャゼンシ)が含まれています(図2)。
心神不安(不安感、動悸、不眠)を軽減する安神薬には蓮肉の他に人参、茯苓も含まれます。心神不安は疲労感(3)を参照してください。
4.清心蓮子飲の関連方剤
4.1)牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)と八味地黄丸(ハチミジオウガン)の適応症状(排尿困難、残尿感、夜間尿、頻尿)は清心蓮子飲の適応症(尿が出しぶる、残尿感、頻尿、排尿痛)と類似しています。排尿異常(1)を参照してください。
この3方剤は補腎剤に分類されています。前2方剤は胃腸症状を引き起こす熟地黄(ジュクジオウ)を主薬にしています。
清心蓮子飲は、図3の黄色で囲んだ補気薬を含むので胃腸虚弱の人にも適する内容になっています。これが清心蓮子飲と牛車腎気丸や八味地黄丸との相違点です。
4.2)竜胆瀉肝湯(リュウタンシャカントウ)は排尿痛を伴う排尿異常や残尿感に用いられる方剤です。本方の適応は清心蓮子飲より炎症性の熱証病変です。
本方と清心蓮子飲は、漢方薬名の意味:竜胆瀉肝湯で比較しています。
4.3)淋証に用いられる3方剤の比較
淋証(リンショウ)は排尿痛、頻尿、尿の勢い低下、残尿感、尿の切れが悪いなどの排尿異常の病態を意味する漢方漢方用語です。
淋証に用いられる3方剤を比較しました(図4)。
・竜胆瀉肝湯は、排尿痛、のぼせなど熱証が顕著な病態に適します。
・牛車腎気丸は、足腰の衰え、腰下肢の冷痛、しびれを伴う病態に適します。
・清心蓮子飲は、胃腸虚弱者にも用いられる補気補腎剤です。
清心蓮子飲製剤の適応病態
清心蓮子飲製剤の【効能又は効果】は頻尿、排尿困難などの排尿異常に限定されています。古典に例示された適応症状より狭くなっています。
ここでは、本方が
1)胃腸虚弱者にも適する補気補腎剤であることと、
2)不安、焦燥感、不眠を軽減する心神(シンシン:こころ)を安定させる安神剤であることを再確認しました。
(2022年4月15日 改訂公開)
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病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。
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