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病気の悩みを漢方で

啓脾湯(ケイヒトウ)
1.啓脾湯(ケイヒトウ)名の意味
啓脾湯の啓脾は、脾(ヒ)を啓く(ヒラク:開通させる、活性化する)という薬能を意味しています。
脾は、食べ物の消化吸収機能を担う漢方医学の五臓(肝・心・脾・肺・腎)の一つです。西洋医学の脾臓とは異なります。五臓を参照してください。
本方は、胃腸虚弱(脾胃気虚 ヒイキキョ)を軽減する四君子湯(シクンシトウ:図1の黄色枠内の4生薬)の関連方剤です。

啓脾湯の古典に記載されている薬能は「食を消し、瀉、吐を止め、脾を益し健にする」です。
この益気止瀉の中心となる配合生薬は、補脾止瀉薬の蓮肉(レンニク:ハスの種子 図2)です。
さらに、蓮肉と連携して、山楂子(サンザシ)と山薬と四君子湯が益気止瀉に寄与します 。
以上のことから本方の名は、本方が、消化吸収機能が低下した脾胃気虚による倦怠感を伴う下痢に適することを示唆しています。
2.啓脾湯の適応:

啓脾湯は、消化吸収機能の低下、倦怠感と、吐き気、胃もたれ、膨満感、下痢に用いられる補気消食止瀉剤です。
本方の主な適応は、冷え症傾向の軟便泥状下痢です。霍乱を参照してください。
啓脾湯は、多様な病態の下痢に応用されています。
・西洋薬治療に抵抗する小児下痢症を軽減。
漢方の臨床, 1996; 43: 217-23
・過敏性腸症候群下痢型の排便量、排便回数を軽減(胃腸機能調整薬・マレイン酸トリメブチンと同程度)。
Therapeutic Research, 1999; 20: 2179-85
・がんの化学療法による下痢を軽減。
日本気管食道科学会会報, 2009; 60: 379-383
・ステロイド薬で寛解導入できた潰瘍性大腸炎を本方単独で寛解を維持。
Progress of Digestive Endoscopy, 2016; 88: 65-68
3.啓脾湯の関連方剤
3.1)参苓白朮散(ジンリョウビャクジュツサン:10味)は、胃腸虚弱、食欲不振、消化不良を伴う軟便下痢に用いられる補気止瀉剤です(日東医誌., 1963; 14: 38-44)。
本方は、啓脾湯の適応症状に加えて、不眠やいらだち、腹直筋攣急の所見がある病態に適します(漢方の臨床, 2020; 67: 1095-1099)。
本方は、啓脾湯の四君子湯(図3の黄色枠内の4生薬)と山薬、蓮肉を含みます。

3.2)人参湯(ニンジントウ)は、
・経腸栄養を必要とする腸管不全症患者の下痢(日病総診誌, 2019; 15: 28-29)や、
・冷たいものを摂取した後の下痢(診断と治療, 2017; 37: 721-727)に用いられています。
本方は、補気薬の人参、白朮、甘草と温中散寒薬(オンチュウサンカンヤク)の乾姜(カンキョウ)を含みます(図3)。温めて消化吸収機能を調整する補気散寒剤です。冷え症(2)や夏やせを参照してください。
3.3)清暑益気湯(セイショエッキトウ)は、暑さや高温多湿による熱中症後の暑気あたり・夏ばて・夏やせに伴う下痢に用いられます。全身倦怠、だるさ、発汗後の口渴、食欲不振を伴います。夏ばて(1)を参照してください。
本方は、補気剤の四君子湯の方意と、発汗後の口渴に適した生脈散(ショウミャクサン:図4の●を付した3生薬)を含みます。
本方は、啓脾湯の適応と類似しますが、夏ばて・夏やせ症状(熱感や口渴)を伴う下痢に適します。

3.4)胃苓湯(イレイトウ)は、暴飲暴食(食積)による急性胃腸炎や暑気あたりの吐き気、口渴、水様性の下痢に適します。霍乱を参照してください。
本方が、気滞、水毒による胃腸炎(治療, 2023; 105: 1542-1550)や、精神的なストレス負荷があり、過敏性腸症候群(IBS)の下痢(日東医誌., 2019; 70: 247-253)を軽減した報告があります。過敏性腸症候群(3)を参照してください。
本方は、気滞、水滞を軽減する平胃散(ヘイイサン:図5の●印の6生薬)と、水滞を軽減する五苓散(ゴレイサン:図4の※印の5生薬)の合剤です。
本方は、啓脾湯より体力の実証・陽証傾向の急性期病態に適します。

3.5)藿香正気散(カッコウショウキサン)は、胃腸虚弱者の夏かぜに伴う下痢、吐き気に用いられます。夏かぜや胃腸かぜを参照してください。
本方は、理気健脾剤の平胃散と化痰剤の二陳湯(ニチントウ:図6の●を付した5生薬)を含みます。


啓脾湯の口訣(抜粋)
・本方は、四君子湯に、脾を補い下痢を止める山薬、蓮肉、消化を助ける陳皮、山楂子、燥湿の沢瀉を加えた方剤。消化不良、軟便下痢に用いる(髙山宏世)。
・本方は、消化機能低下(脾虚)に伴う消化不良(食積)や全身の機能不足(気虚)を治す。とくに慢性的な胃もたれ、食欲不振、膨満感、下痢に適す(三浦於菟)。
・本方は、四君子湯が基本になっている。生まれつき胃腸が弱い人の水様性下痢症や小児の消化不良症に用いられる(花輪壽彦)。
2025年3月26日 改訂公開
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病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。


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