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病気の悩みを漢方で

大建中湯(ダイケンチュウトウ)
1.大建中湯(ダイケンチュウトウ)名の意味
大建中湯の建中は、中(チュウ:おなか、消化器)の機能を建てる(丈夫にする、健全にする)という薬能を示しています。
方剤名の大は、小建中湯(ショウケンチュウトウ)に比べて冷えと腹痛を「大いに」建中することを意味しています。漢方薬名の意味:建中湯類を参照してください。
大建中湯は、温中散寒薬と補気薬の4生薬で構成されています(図1)。

山椒(サンショウ:図2 サンショウの果皮)と乾姜(カンキョウ:加熱調製したショウガ根茎)は、低下した消化機能を温めて建中する温中散寒薬です。
膠飴(コウイ:麦芽糖を主成分とする水飴)は、温中補気、緩急止痛薬です。
人参(ニンジン)は、消化吸収機能の低下(脾胃気虚)を改善する補気薬です。
以上のことから方剤名は、本方が、体力虚弱傾向の人の消化吸収機能の低下による便通異常や腹痛に用いられることを示唆しています。
2.大建中湯 の適応
大建中湯は、冷えを伴う腹痛、膨満感、便通異常(便秘、下痢)に用いられます。病態は、寒冷刺激で悪化し、温めると軽快します(日東医誌., 2008; 59: 715-719)。
現在では術後の腸管機能失調や入院期間の短縮に活用されています⇒2.3)項目。
なお建中湯類は、筋肉の緊張を緩和する芍薬-甘草の薬対を含む方剤が多いのですが、本方は、芍薬を含まない特異な建中湯類です。漢方薬名の意味:建中湯類を参照してください。
2.1)便通異常(便秘、下痢)への大建中湯の応用例
・腹部の冷え・痛み、蠕動不穏、下痢を軽減。
日東医誌., 2010; 61: 180-184
・大腸通過遅延型と便排出障碍型の慢性便秘に適する。
日本大腸肛門病会誌, 2019; 72: 615-620
・下痢型過敏性腸症候群の腹部膨満感と冷たいものの摂取による下痢を軽減 (人参湯と併用)。
日病総診誌., 2019; 15: 28-29
2.2)妊婦や高齢者への大建中湯の応用例
・妊婦の便秘と随伴する腹部膨満感、腹痛を軽減。服用による早産などの有害事象は認められなかった。
日東医誌., 2022; 73: 1-7
・高齢のアルツハイマー病患者の便秘を改善し行動・心理症状も軽減。
日本脳神経漢方医学会誌, 2025; 10: 71-77
大建中湯は、刺激性瀉下薬の大黄(ダイオウ)を含まないので高齢者や妊婦の便通調整に適します。
2.3)腹部術後の腸管機能異常への大建中湯の応用例
・胃がん全摘と空腸間置再建術後の上腹部膨満感、不快感、腹痛、食後の停滞症状を非投与群より有意に改善。
American J. of Surgery., 2006; 192: 9-13
・大腸がん術後の腸管蠕動不全の発生を減少させ、術後の在院日数を短縮。
日外科系連会誌., 2012; 37: 712-718
・子宮頸がん術後の放射線治療に伴う疲労感、腹部の冷えと痛み軽減。
日東医誌., 2018; 69: 173-177
3.大建中湯 の薬効薬理(図3)
大建中湯は、術後の腸管運動低下を抑制する機序が解明されつつあります(日医大医会誌., 2010; 6: 127-129、外科と代謝・栄養, 2025; 59: 33-38)。

図3のBTは、腸管内の生菌や死菌やエンドトキシンなどが腸管腔内から腸管壁を越えて移行する病態です。術後に全身状態が悪化する要因の一つです。大建中湯はBTの発症率を低下します(外科と代謝・栄養, 2022; 56(2): 59-61)。
4.大建中湯 の関連方剤
4.1)小建中湯は、体力虚弱で疲労しやすい人の腹痛に用いられています(日小外会誌., 1999; 35: 37-41)。大建中湯より冷えが軽微な状態に用いられます。漢方薬名の意味:建中湯類を参照してください。
本方は、腹痛や腹部膨満感に用いられる桂枝加芍薬湯(桂枝湯+芍薬増量)に膠飴を加味した補虚散寒剤止痛剤(軽度の補気補血剤)です(図4)。

4.2)中建中湯(チュウケンチュウトウ)は、大建中湯と小建中湯の合方です。エキス製剤では、大建中湯と桂枝加芍薬湯を併用して代用されることがあります(日東医誌., 2017; 68: 152-156)。
4.3)当帰湯(トウキトウ)は、冷え、胃腸虚弱、抑うつ感、腹部や背部の痛み、腹部膨満感に用いられています(日東医誌., 2025; 76: 24-27)。
本方は、乾姜と山椒と、人参と膠飴を大建中湯と共有する関連方剤です(図5)。本方は、皮膚につやのない血虚(ケッキョ)を補う補血薬や、胃もたれ、吐き気を軽減する化痰薬(ケタンヤク)を含む点で大建中湯と異なります。

4.4)人参湯(ニンジントウ)は、冷房など冷えによる下痢・軟便(冷房下痢)に適します(日消誌., 2010; 107: 1577-1585)。
本方は、人参と乾姜を大建中湯と共有します(図6)。大建中湯より冷えや腹痛の軽減な下痢軟便に適します。漢方薬名の意味:人参湯を参照してください。


大建中湯の口訣(抜粋)
・寒冷刺激で悪化し、温めると緩和する腹痛、ゴロゴロ鳴る膨満感、便秘傾向に用いる。術後の腸管麻痺やその予防に使われる(三浦於菟)。
・ガス貯留による腹部膨満、腸管癒着による腸閉塞を軽減する第一選択薬。効果が不十分な場合は、桂枝加芍薬湯を併用する(新井信)。
・腹腔鏡下結腸がん術後の抜管、排ガス、排便までの時間を短縮。小腸と大腸の通過時間を短縮。術前服用と術後早期の服用が有用(大塚幸喜)。
(2026年5月18日 改訂公開)
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病気の悩みを漢方で
谿 忠人 先生
大阪大学薬学部卒・同大学院薬学研究科修了
- 大阪大学薬学部・助手 (生薬材料学と生薬化学)
- 近畿大学東洋医学研究所・講師・助教授 (臨床漢方薬学)
- 住友金属工業(株)未来技術研究所・医薬研究部長 (創薬研究)
- 富山大学和漢医薬学総合研究所・教授 (資源科学と漢方医療薬学)
- 大阪大谷大学薬学部・教授 (漢方医療薬学)
- 平成24(2012)年3月に大阪大谷大学を定年退職。
- 大阪大谷大学名誉教授。
- 日本東洋医学会名誉会員、和漢医薬学会名誉会員。


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