病気の悩みを漢方で

１. 花粉症の概要

　花粉症は､花粉が抗原（ｱﾚﾙｹﾞﾝ）になって発症する季節性のアレルギー性鼻炎です。花粉症の治療は､
・急性期症状（鼻水､くしゃみ､鼻づまり･鼻閉など）に対する対症療法と
・寛解期に体調（正氣ｾｲｷの失調）を整える全身療法があります（図１）。
　正氣は､生命維持活動と自然治癒力に相当する漢方用語です。気血水を参照してください。

　今回は､花粉症の急性期の対症療法に用いられる漢方方剤を考えます。

２．急性期に用いられる小青竜湯（ｼｮｳｾｲﾘｭｳﾄｳ）とその展開

2.1）小青竜湯は､花粉症や鼻アレルギーの急性期の鼻水､くしゃみ､鼻閉に用いられる第一選択薬です（耳鼻咽喉科・頭頸部外科. 2015; 87: 1094-1100）。漢方薬名の意味：小青竜湯や鼻水と鼻づまりを参照してください。

　小青竜湯製剤は､通年性鼻アレルギーに対する有用性が検証されています。

　花粉症の漢方治療では､鼻粘膜の発赤を熱証､蒼白を寒証として方剤を使い分けます（日鼻誌., 2008; 47: 83-85）。小青竜湯の適応となる鼻粘膜は､蒼白傾向､浮腫傾向です。

　小青竜湯の応用展開を図２にまとめました。上部が熱証傾向に対応する展開､下部は寒証に対する展開です。

2.2）越婢加朮湯（ｴｯﾋﾟｶｼﾞｭﾂﾄｳ）は､小青竜湯より鼻粘膜が赤い熱証傾向で目の痒みを伴う病態に適した石膏（ｾｯｺｳ：清熱）を含む麻黄剤です（図３）。

　越婢加朮湯は､花粉症のくしゃみ､鼻汁､鼻閉に用いられています（日東医誌., 2009; 60: 611-616）。漢方薬名の意味：越婢加朮湯を参照してください。

2.3）虎龍湯（ｺﾘｭｳﾄｳ：五虎湯＋小青竜湯）
　虎龍湯（図４）は､五虎湯（ｺﾞｺﾄｳ）と小青竜湯を併用した時の通称名です（漢方の臨床. 2016; 63: 851-854）。この併用は､花粉飛散が多量になって水様性鼻水と粘稠性鼻汁が併存する時に用いられます（日東医誌., 2009; 60: 611-616）。鼻水と鼻づまりを参照してください。

2.4）大青竜湯（ﾀﾞｲｾｲﾘｭｳﾄｳ）
　大青竜湯（桂枝湯＋麻杏甘石湯で代用）が､小青竜湯より春季アレルギー性鼻炎の全般改善度は高いという比較研究があります（Therapeutic Research. 1998; 19: 3299-3307）。
　越婢加朮湯＋麻黄湯の併用例もあります（日東医誌., 2009; 60: 611-616）。

2.5）麻黄湯（ﾏｵｳﾄｳ）は､アレルギー性鼻炎の鼻閉に対して即効性があります（日鼻誌., 2008; 47: 86-87）。漢方薬名の意味：麻黄湯を参照してください。

2.6）桂麻各半湯（ｹｲﾏｶｸﾊﾝﾄｳ：桂枝湯＋麻黄湯）は､花粉症のくしゃみ､鼻水､鼻閉に対して小青竜湯と同等の効果であることが明らかにされています（準ランダム化比較試験。Therapeutic Research. 1999; 20: 2941-2947）。

2.7）麻黄附子細辛湯（ﾏｵｳﾌﾞｼｻｲｼﾝﾄｳ）には､通年性鼻アレルギーのくしゃみ､鼻汁を軽減し､鼻汁中好酸球数を減少させた報告（耳鼻臨床. 1990; 83: 155-165）や､アレルギー性鼻炎の鼻閉に対する即効性（日東医誌., 1999; 49: 859-863）が報告されています。
　本方は､小青竜湯より冷え症､倦怠感がある病態に用いられます。漢方薬名の意味：麻黄附子細辛湯を参照してください。

３．急性期から亜急性期に用いられるその他の方剤

3.1）葛根湯加川芎辛夷（ｶｯｺﾝﾄｳｶｾﾝｷｭｳｼﾝｲ）は､小青竜湯より粘稠傾向の鼻汁､鼻づまり､肩こりを伴う花粉症の亜急性期に用いられます。鼻水と鼻づまりや漢方薬名の意味：葛根湯を参照してください。
　本方は､アレルギー性鼻炎患者の感冒後の鼻閉（日東医誌., 1995: 46: 83-89）や副鼻腔炎患者の鼻閉を改善（耳鼻臨床. 1984; 77:153-162）した報告があります。

3.2）苓甘姜味辛夏仁湯（ﾘｮｳｶﾝｷｮｳﾐｼﾝｹﾞﾆﾝﾄｳ）は､解表薬の麻黄と桂皮を含みません。化痰薬（ｹﾀﾝﾔｸ）の細辛､半夏､乾姜は小青竜湯と共通です（図５）。

　本方は､鼻アレルギー患者の鼻汁､くしゃみ､鼻閉を改善した報告があります（耳鼻臨床. 1997; 補92: 43-46）。
　本方は､小青竜湯より胃腸虚弱で冷え症傾向の人に適します。かぜ（４）を参照してください。